『サッチャー時代のイギリス』森嶋通夫/岩波新書/1988年よりピックアップ:

日本にはイギリスの意味での政党は−−日本共産党以外には−−存在しない。党に所属した以上、各人は小異を捨て大同を保たねばならない。党員となった以上、彼らはマニフェストに忠実でなければならない。


日本では党への忠誠を要求しているのは共産党だけであるといっても過言ではない。特に自民党の国会議員団とは、総選挙の時に、同じ党の他の立候補者を引きずり下ろすのに優れていた人たちの集合体であるから、自民党の政策は−−公約らしきものがあるにしても−−選挙がすむまでは−−誰が生き残るかわからないから−−不確定のはずである。極言すれば選挙民は、政策が何であるかをほとんど知らずに投票するのである。


党内での派閥の比重は、選挙後でないと確定しないし、党首には選挙後の党大会で最大派閥の人か、最大連合派閥の人がなるから、党首も選挙がすんでみないと決まらない。


イギリスが党首→マニフェスト→選挙という経路で当選者がえらばれるのに反し、日本は当選者→派閥→党首の経路で党首がえらばれるのである。


だからイギリスでは党首の力は強大である。党員には団結と忠誠が要求される。良心や信念を裏切ってでも党首の主張に従うという意味の忠誠である。絶対多数を占めている与党の首相の力は、独裁者のそれに比することができる。