毎日新聞(2007年7月3日)上杉隆「新聞時評」よりピックアップ:

政治記事には胡散臭さがつきまといやすい。


報道する側の責務として、情報源の秘匿は最重要事項である。ニュースソースを明らかにすることによって、社会的な不利益を蒙ることが明白な場合や、生命や財産が脅かされる可能性があるケースなどは、職を賭してでも情報源を守らなくてはならない。


ところが、政治面では、こうした責務を履き違えて、安易に匿名コメントの使用に流れる傾向がある。公人である政治家の発言を安易に伏せるこの種の記事はそろそろ淘汰されるべきではないか。ニューヨーク・タイムズは公人の匿名発言を一切許していない。これは欧米紙の共通原則でもある。「捏造」などの危険な「誘惑」も待ち受けていることを忘れてはならない。


週刊金曜日(2007年7月6日)「客観報道の罠」佐藤優山口正紀よりピックアップ:

(山口)最近の佐藤さんといえば、『AERA』4月23日号の記事をめぐる公開質問状の件があります。


(佐藤)たとえば、…という地の文があります。しかし、これは事実ではありません。この話は私から出ていることはありえない。記事を書いた大鹿靖明さんの、ある絵柄に押し込んじゃったということだと思います。


(佐藤)私が危惧するのは、こういう記事が情報ロンダリングに使われてしまうということなんです。この種のことがいったん『AERA』に出てしまうと、そのあとは『AERA』誌によれば、といった形で発展させることができるんです。


こうした情報ロンダリングで、記事中の、匿名の《外務省の元高官》の発言なども一人歩きをはじめます。


(山口)地の文に客観的な事実かどうか判別しがたいものをもちこんでくる。その地の文が公知の事実となっていく。補強するものとして関係者の談話がでてくる。その談話が匿名で書かれているので、書かれた側は反論ができない。


(佐藤)外務省高官などの公権力をもつものが意図的な情報操作を考えているときに、その者を匿名とすることへの書き手の認識を問いたいということが今回、公開質問状を出した私の真意なんです。


(佐藤)なぜ、匿名にこだわるかといえば、権力者というのは、不正なことをするとき、自分の官職、氏名を明らかにすることを恐れるからです。今の新聞の疑惑報道は検察の匿名情報ばかりで、記事がつくられている。


(山口)読者は信じきって、リーク情報が1人歩きを始めてしまう。メディアによる「有罪判決」で何が起きるかといえば、長期勾留の正当化です。


(山口)ノーム・チョムスキーは、全体主義国家において暴力装置が果たす役割を民主主義国家ではメディアが果している、それがメディアの基本的機能であって、メディアが民衆を操作し、支配権力に従わせている、と書いています。


週刊金曜日(2007年7月6日)「人権とメディア」浅野健一よりピックアップ:

松岡利勝農水相が5月28日、自殺した。石原慎太郎は「死をもって償った侍だ」とコメントした。


松岡氏の死が「自死」であるという根拠として、5月26日に実家を訪れ、父母が眠る墓を訪れたことが挙げられている。実際には、死亡の直前に実家には帰っておらず、熊本市内に滞在していた。この虚報を伝えた報道機関で、訂正をしたメディアはないようだが、『熊本日日』だけは続報で前日の報道を否定している。


虚偽情報を報道陣に伝えたのは阿蘇市の阿部市議だ。私は阿部市議の自宅へ電話をかけたが、家族が「家にはいない」と言うだけだった。


週刊金曜日(2007年6月22日)「人権とメディア」中嶋啓明よりピックアップ:

朝鮮総連の関連団体が4月25日、警視庁公安部などの家宅捜査を受けた際、公務執行妨害の現行犯で逮捕された男性が、5月末に不起訴処分になっていたことが分かった。


逮捕容疑について勾留状には、男性が規制線の最前列で警備していた警視庁所属の橋本昇太巡査に体当りし、巡査を地面に押し倒すなどの暴行を加えたなどと書かれている。


だが、男性はこうした容疑”事実”を全面的に否認した。逆に男性こそ、警察による暴行、傷害の被害者だったのだ。


警察側の暴行は、たまたま撮られていたビデオに一部始終が写っていて、準抗告の申立を審理した裁判所も「ビデオテープに撮影されている状況と男性の弁解は矛盾せず、むしろ男性の弁解を裏付けている点もある」と判断している。


家宅捜索を報じた『東京新聞』4月25日夕刊には、男性が押し倒されている様子が写った現場写真が大きく掲載されているが、これにもマスコミ関係者とおぼしき人間が偶然、写っている。


マスコミの記者、カメラマンらは、警察側の了解の下、規制線の内側に堂々と入り、取材していたのだ。


だが、『東京』を含めマスコミ各社は、自社の記者らが目撃したであろう警察官の暴行を一切、記事にはしなかった。容疑事実にもない虚偽をでっち上げるなど、警察側の見方に沿った短い記事を載せただけだった。


だからマスコミは、権力の手先と言われるのだ。