松井孝典・三枝成彰・葛西敬之『人生に座標軸を持て』ウェッジ選書/1999年よりピックアップ:

惑星の形成に関する理論で有名になったという松井孝典は、個人よりも全体を重視する社会観を表明している。「21世紀はフロンティアがないので右肩上がりは期待できず、民主主義や個人の尊重、人権を強調していくと、必ず矛盾が起こる」と主張している。そのためか、右派系政治家に受けがよくて、政府系の審議会に参加したり、石原慎太郎中曽根康弘などの右派政治家などと集って社会について発言している。


一般の人は、学者というのは勉強ができるのだから自分の専門外の知識や判断力も相当にあるはずだと思うかもしれないが、これは間違いだと思う。


松井孝典三枝成彰葛西敬之『人生に座標軸を持て』ウェッジ選書/1999年よりピックアップ:


松井孝典の発言)

個人をユニットとする世界連邦だとかを志向した瞬間から、僕は人間圏のビッグバンが始まると思っている。あるシステムを構成要素にまで分解するというのはビッグバンの状態ですよ。均質な状態というのは死の世界に他ならない。


人間圏の分化とは何に関係するか。宇宙も地球も生命もなぜ分化するかというと、実は冷えるから。冷えると分化する。熱すると均質化していく。


世界がインターネット社会化していくということは人間圏が分化ではなく均質化していくということで、不安定化していくことだと思います。


だからこそ、いまは国家論をやらないといけない。


ヘルマン・ハーケン『自然の造形と社会の秩序』東海大学出版会/1985年よりピックアップ:

温度を上げると分子の熱運動が激しくなり、混沌の程度が増大することを述べた。では、冷やしてやれば秩序状態を得ることができるだろうか。水を冷やしてゆくと氷の結晶になることを知っている。物理学では、分子の集合状態(固体、液体、気体など)の区別を相という言葉でよび、その相の移り変わりを相転移と呼んでいる。


私たちは、相転移によって秩序が生まれるという考え方を、生命現象にそのまま応用しようとする誘惑にかられる。ところが、それには難点がある。生命現象は温度低下とともに不活発になり、死にいたるからである。


容器に入れた液体を下から加熱してみると、次のことが観察される。上下の温度差がわずかだと、液体は動かない。温度差を上げてゆくと液体は大規模な運動を始め、秩序立ったロールの形が観察される。


基本原理を取り出すことができる。ある物体に外的な条件を変えると、たとえば液体で上下の温度差を増すと、今までの状態が不安定になり別の巨視的状態に置き換えられる。この移り変りの近くでは、常にゆらぎを通して、新しい秩序の可能性がいくつか試されている。その中から一つの新しい秩序に従う集団運動のパターンが強化され、他のすべての集団運動を征服する。集団運動の中には、競争するだけでなく、協力を行なって新しいパターンを生むものもある。


相転移とは違って、加熱された液体の場合には運動のパターンという動的なものが問題になる。その秩序の成立にあたっては、周囲の境界の形が影響する。


ラモン・マーガレフ『将来の生態学説』築地書館/1972年よりピックアップ:

サイバネティックスの見地からすると、自然の基本的性質は、異なる情報量をもつ2つのシステムのあいだになんらかの交換があるとき、情報の分割とか平均化とかをもたらすのではなくて、その差をさらに増大させるということです。多くの情報を蓄積しているシステムは、交換によってさらに富みます。


同じ原理が、人間や人間社会のオルガニゼーションに対しても成立します。


(by pick-up)人間の社会の構造を究極の高温状態であるビッグバンに例えるセンスの悪さ!宇宙だって収縮に転じてビッグバンに戻ることはないと言われているのに人間圏がビッグバンになるだって?世界連邦ができるなんて可能性は全くないのに、それを心配している!インターネットで均質化だって?インターネットカフェで寝るしかない非正規労働者と、ビル・ゲイツのようなIT長者が同じに見える?人間の社会は放置すれば、均質化ではなく、格差拡大に到るのが普通です。


やはり右派政治権力の周辺にいる学者の一人である川勝平太は、“相転移の誘惑”にのってしまった松井孝典の冷却分化論を真正の唯物史観であると讃美している(『文明の海洋史観』中央公論社/1997)。その讃辞には転向者のシッポが見えている。