『世界、2007年1月』佐藤優・柄谷行人「国家・ナショナリズム・帝国主義」よりピックアップ:

(柄谷)
120年前をふりかえると、カントの理念にもとづく平和運動が出てきたことに気づきます。実は、日本で最初の反戦平和運動をやったのは、25歳で自殺した詩人、北村透谷です。彼は、そのために雑誌を出し、カントの「永遠平和のために」を引用しています。


(佐藤)
むしろ日本の行く末が私は非常にわかりにくいのです。高度に発達した資本主義社会であり、生活水準もそこそこで、人間はアトム化し、核家族化している。そのなかに明らかに病理的な拝外主義的ナショナリズムが高まっている。


(佐藤)
靖国問題もいちばんのポイントはそこですね。


(柄谷)
死者の名で語るのはやめるべきです。未来の人間に関しても同じなんですよ。私は、国家と異なるネーションの特徴は、生きている人間だけでなく、死んだ人間とまだ生まれていない人間を含んでいるところにあると思います。ナショナリズムはそこに立脚する。ナショナリズムは宗教・共同体が衰退したのちに出てきた、その代補です。


(柄谷)
中国では今ナショナリズムが燃え盛っているという報道がありますが、私はそう思わない。日本はどうかというと、社会と国家が一体化しすぎていると思う。国家から自立する「個別社会」の契機が乏しいんですね。


(佐藤)
9条で去勢されているという感覚は重要だと思うのです。


(佐藤)
駐米大使館員は160〜70人ですが、アメリカの内政を担当しているのは1人です。防衛庁が合同情報本部をつくってもアメリカ班はない。アメリカは調査の対象にならないのです。


(柄谷)
しかし、アメリカを潜在的な敵国として想定しないというのは、信じがたいですね。