週刊金曜日(2007年9月21日)「非武装を語る前にまず海外での武力行使禁止で大同団結を」豊下楢彦よりピックアップ:


(聞き手・成澤宗男)

(豊下)護憲派といっても、非常に錯綜しています。60年代から80年代の共産党は、改憲論=中立自衛論でした。宮本顕治氏がよく言っていたのは、「もし東京湾に敵の潜水艦が現われたらどうするんだ。非武装で対応できるのか」ということでした。


自衛隊は米国の傭兵だから、これは廃止する。憲法9条を改正して、独自の軍隊を持つという中立自衛論です。


かりに日本で共産党が政権を握ると、必ず米国が攻めて来る。そのときは、抵抗しなければだめだという論理です。


ところが89年〜90年、冷戦が終ると共産党は急に、9条が世界的に意義を持つのだと、非武装中立論に転換します。この転変が理論的に総括されないまま、いまに至っていると思います。


もう一つの転換点は、湾岸戦争でした。日本の左翼勢力は対応できなかった。

(豊下)国際政治を一生懸命勉強しているという学生に、「どんな勉強をしているの」と聞くと、バラエティ討論番組の「ビートたけしのTVタックル」を毎回見ていると、胸を張って答えました。


(聞き手)冗談じゃなく?


(豊下)まじめに答えているのです。「TVタックル」がいま、若い世代の世論に重要な影響を持っています。毎回のように浜田幸一なんかが、「北朝鮮がミサイルを撃って来たら、どうするんだ」というような議論をやっている。宮本顕治の「東京湾に…」が、いまは北朝鮮に変わって、けんけんごうごうやっている。

(豊下)私たちの世代は、日本は加害者だという意識です。ところが若い世代は逆で、物心ついたころから北朝鮮テポドンあり拉致があり不審船問題がある。中国や韓国からは歴史問題で言われる。日本が圧迫されているという被害者の意識があるのです。


タカ派は、若い世代の被害者意識をうまくあおりながら、排他的ナショナリズムを醸成しています。


私が担当する国際政治論の授業で「何に脅威を感じているか」と聞くと、大半が「北朝鮮のミサイル」と言います。


毛沢東の時代の中国は、何回も核実験をやって、アジア全域を射程に入れるような核ミサイルを持っていました。当時の毛沢東の日本への痛罵は、すさまじいものでした。核抑止論なんて中国には効かないぞと、明言しています。


いまの北朝鮮は核開発を試みただけで、毛沢東の中国とは月とスッポンです。歴史的な比較を行ない、ミサイル防衛の理論的な問題や技術的な問題を説明し、米国と北朝鮮は、国交正常化に向けて動いているということを説明すると、学生たちは一コマの授業で変わります。


軍事の専門化が指摘するように、ノドンは原発を狙っても当たるのは数千発に一発かもしれません。しかし、政府はそうだとは言えない。嘉手納基地にパトリオット・ミサイルが必要だという前提に立っている。そうすると、嘉手納基地を狙うのと同じように原発を狙うことになる。そこで政府の議論の破綻が起こってくるわけです。


若い世代を相手にしていると、タカ派の議論がどれだけ浸透しているかが目の前で分かりますよ。

(豊下)非武装を主張する人も、現状の自衛隊を肯定する人も、海外での武力行使は反対だという一点でなら統一できます。